January 29, 2012

独裁で何が悪い?

大学で政治学を専攻したわけでもないし、政治史の本をよく読んでるというわけもないんですけど、日本人にしては中東やアフリカに住んだり出張したりが多くて「独裁」には縁がある方なので、それなりに考えることはあります。学術的には穴だらけの理屈なのでしょうが、体感的にはこんなふうに考えられたよ、という話をメモっておきます。

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独裁で何が悪いんでしょう?

アフリカや中東には正真正銘の独裁、独裁的な大統領、王制など、民主主義とは呼べない独裁的な統治をやっている国がたくさんあります。それで何が悪いのか。

悪くないと思うんです。ただし、統治が公正である限りは。そして国家権力が暴力的でない限りは。

プラトンだって、高い見識を持った哲人が私心を脇において国家を第一に考えて統治するような、為政者のノブレス・オブリージュに期待するような哲人政治をよしとしたんじゃなかったけ?ローマだって中国だって、善政を敷く賢帝の出た時代は幸せでした、と世界史の教科書に書いてあった気がする。

独裁者が有能で公正である限りは独裁って悪くない。そう思うのです。特にアフリカや中東みたいに、貧しかったり、国家よりも一族の繁栄の方が重要だったり、拮抗する派閥間の対立が厳しかったり、あるいはその全てがあったりすると、民主主義の実践は皮肉にも暴力や腐敗を生み、却って国を不安定化・弱体化させているように見える。

ただね、独裁を肯定するには、「統治が公正で暴力的でない限り」、「独裁者が有能で公正である限り」という留保が付く。そしてこれがどうしようもなく難しいんでしょうね。

為政者本人が優れていて清廉であっても、その権力を傘に着る大臣や官僚のすべてが公正で清廉などということはあり得ない。国家は為政者が一人で治めるには大き過ぎ、必ず統治の機構が要るんだけど、その機構はきっと利権に溺れ、縁故主義に走る。時に反対する者を暴力で潰す。

為政者が有能である、ってこの統治機構にまでその徳の威光を浸透させることができる、ということなのかもしれないけど、それはちょともう、哲人っていうか神の領域のような気がする。「絶対権力は絶対腐敗する。」という格言を持ち出すまでもなく、「よい独裁」って難しい。

そして、そこからがさらに問題。失敗した独裁者、独裁政権には、それを穏便に交代させる仕組みがないのです。武力弾圧される危険を冒してデモをやるか、出待ちして襲うか、いずれにしろ合法的に手続きに則って退陣させる方法がない。

有能で公正な独裁政権は悪くない。が、そういう独裁政権は滅多にできない。できてもやがて腐る。そして腐ってしまっても交換できない。

いろいろ問題があるし、完全無敵なシステムではないですけど、この一点で民主主義が優れているのだと思うのです。すなわち、民主主義は失敗した為政者を交代させる仕組みが内蔵されている。

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中東やアフリカを見ていると、欧米式の自由で公正な普通選挙を基本とする民主主義システムを強制するのは却って国を不安定化させ、暴力を誘発し、貧困を悪化させる側面があるようにも見える。といって、とんでもなくヤクザな独裁政権をのさばらせておくのも許しがたい。

どこまで為政者の無茶を許すのか。アジアでよく見られた開発独裁というのがそのひとつの妥協点なのか。あるいは、アフリカでしばしば見られる、族長や各勢力のドンが話し合いと妥協で方向を決め、たとえそれが非合理的な内容であってもその権威にみんなが従う「長老政治」的なものを認めることが解になり得るのか。またあるいは、中東諸国ではイスラム教を倫理の規範とすることで為政者の暴走に歯止めがかかると信じていいのか。

現に今生きている人々の日々の暮らしの安定と向上を目指すのなら、妥協点は厳格な民主主義と厳格な独裁主義の間にあるんじゃないのかなあと考えたりするのです。欧米的な民主主義は、それなりの豊かさを達成した後の導入でもいいんじゃないか、とね。

January 14, 2012

南部アフリカの物価高。

日本から見ると東南アジアの物価は一般に安くて、年金生活に入ったらクアラルンプールで悠々暮らしましょう、なんていう人もいたりするので、途上国の物価は日本より安いもんだという印象がありますが、そうでもないところがあります、という話。南部アフリカなんですけどね。


世界の生活費の高い都市ランキングでニューヨークや東京、モスクワやムンバイも差し置いて、アンゴラの首都ルアンダが一位になったというニュースとか、聞いたことありません?


高いんですよ、南部アフリカの物価は。


貧困問題が深刻で開発が遅れている南部アフリカ、物流やインフラが不十分で、物資の調達も難しければ、電気や水も安定供給されない。そんなところで健康で文化的な生活を営もうとすると、えらいお金がかかるのです。富裕〜中間層の人々や外国人が住宅を探そうとすると、単身赴任や夫婦2人用程度のところでも、ルアンダでは家賃が月4000ドルを超える水準だと聞きます。それが豪邸かというと、実は断水や雨漏りの絶えない家だったりする。なんてことないビジネスホテルが1泊400ドル、しかも料金前払いでデポジットしなくちゃいけない、とかいう話も聞きます。


日用品もみんな割高。先進国品質の物を持って来るのが大変で、途中でマージンもいっぱいかけるんでしょう、コーンフレークが一箱1000円、みたいな感じらしいです。で、必要ならばそこで買うしかない。他に行けば安い、なんてことはない。


要は貧しく厳しい環境なので、そこで先進国水準のものを調達しようとするとコストが掛かる、かつ、その供給が少ないので競争が働かない、ということで値段が高止まりしてしまう。


だったら、そこに参入して一儲けできそうな気もするんですが、参入しようにもビジネス環境が悪いし、リスクを取って参入するには市場が小さく旨味も少ない。なので、高い物価が放置される、という構造のようです。


中でもアンゴラは石油を産出するので経済が好調、ビジネス客の流入に対しマトモな住宅や物資の供給が十分追いつかないという事態になってとんでもない物価高になったらしい。


他方、南部アフリカで最も発展していて、もはや途上国とは呼べない水準に来ている南アフリカ共和国の物価が周辺国より安いというのも納得です。大手を含むたくさんの事業者がいて競争する大きな消費市場があるし、物流も通信もまともなので国際市場ともリアルタイムにつながっている。南アフリカの物価は日本よりやや安いと感じますよ。


じゃあ、南部アフリカの貧しい多くの人々はどうやって生活しているのか?


切り離されているのです。違うレイヤーで生活している。日常的に現金で買うものは、主食(トウモロコシの粉とか)、食用油、砂糖、あとはせいぜい携帯電話の通話料か、というところで、その他の消費が少ないのです。半分自給自足のような生活で、都市部とは大きく異なる生活です。同じ国の中、同じ国土の上で生活していながら、全然違う生活をしています。「格差」というよりは「断絶」という感じですよ。で、前に書いた「現実はひとつじゃない。」という状況にも陥るわけです。


アフリカ全体でGDPが年率6%成長、10億の人々が暮らすアフリカの時代は近いと言われますけど、この断絶、忘れられた人々をどう包含していくか、なかなか簡単な話じゃないと思いますよ、ほんと。

January 11, 2012

年末年始、一時帰国してました。



新しい1年が始まりました。


年末年始は約8ヶ月ぶりに日本に戻ったりで、盛りだくさんの時間を過ごしておりました。(で、寒い日本滞在の最終盤でカゼを引いてしまったのですが。)


前回の帰国は2011年3月下旬〜4月下旬の震災直後で騒然とした時期でしたが、今回はそれから半年以上の時間を置いてからの帰国で、この間の日本国内の空気の変化を肌で感じることができました。正月だったということもあるのでしょうが、新年を占うというか、世界はどうなる、日本をどうする、といった前向きの話も多くて、課題山積、見通し不良の中にも新しい社会への手がかりを模索する気概、新時代への胎動に気付く日本滞在になりましたよ。節電のための消灯が減って、見るからに「街が暗い」ということもなくなっていましたしね。


たしかにそう悪くはないと思うんです。ダメだダメだと嘆き、厳しい批判をすることが識者然としてカッコイイと思ってそうな鬱陶しい人も多いし、地震・津波の被災地域はまだまだ厳しい状況なので「大丈夫」などと軽々には言えないのは承知してますが、実際に東京や実家のある福岡に滞在してみると、拍子抜けするほどみんな元気。魅力的な人がたくさんいて、いろんな街があって、メディアも多くて、ネットも早くて、何気なく生活していても自然と入ってくる情報が多くて、刺激的。洗練されていて、清潔で、でも猥雑で、なんでもあって、おいしくて、快適。


文句や要求ばっかりでうるさい人々や、科学的根拠はないけど一般受けのいい言説におもねるマスコミ、そしてそれらを恐れて身動きが取れない政治、そんなのばかりが目立ってますけど、考えている人、行動する人もちゃんといて、言うほどどうしようもなくはない。インフラや市民社会も健全で力強く、日本の基礎体力はまだそこまで落ち込んでもないよなって思えた。


まあね、私がもっとどうしようもない国ばかりを見て来たということもあるでしょうが、それでも少なくとも日本は相対的にマトモな国である、とは言えるわけでして。


無邪気に現状を肯定しているわけではないのです。
課題、問題があることもこれまた事実なので、当然ながら手を打っていかなくてはいけない。混乱もあると思う。危険な兆候もある。対応に失敗して苦境に陥ることもあると思う。でも、それでも、時間は前にしか進まないんだし、これだけたくさんの人が前を向いて歩いているんだから、きっとそれなりのカタチにはなっていくんじゃないの?


なにポリアンナみたいな能天気なことを言ってるのと怒られそうですけど、年の初めはちょっと楽観的な気分の日本滞在でございました。


本年もどうぞよろしくお願いいたします。